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第一話/プロローグ

第三節


 アルファは一人独房に隔離されていた。普通BCMは些細な事件でも起こすとBCMカプセルという一時保存水槽に戻されるのが普通だが、アルファの場合特別だった。半分人間半分BCMのための水槽が完成されていないのだ。厳戒な監視の中、殺風景を一点見つめているアルファは何を考えているのだろう。数分後、アルファは大の字に仰向けになって寝転んだ。

「つまらない」

 その一言が心中に響き渡り、侵食する。監視員は当分安心だと思い、カップラーメンのスープをゆっくりとすすった。飲み干した後、監視モニターを見るとこの画面を映し出しているカメラを壊そうとしているアルファがあった。その直後スピーカーにカメラを壊した音量が反映し、モニターは中継を途絶えた。


『捕まえろっ! アルファが脱走してしまう!』


 監視員はマイクを用いて大声で叫んだ。アルファを捕らえるため、防災シャッターが下り始める。騒々しく鳴り響く警告音とランプがアルファを余計際立たす。アルファは周囲を気にせず一直線に走り抜けた。しかし、とうとう厚みの有るシャッターがアルファの前に立ちはだかった。ここで初めて後ろを振り返る。だが、その瞳には人らしき人は映っていなかった。そして再度シャッターを見つめ返す。アルファならいとも簡単に破壊できる厚さである。何故かここで戸惑ってしまう自分を憎たらしく思えた。迷うこと無いさ、やってやる。そう言い聞かせてシャッターに向かって思いっきり殴りかかろうとした瞬間、ひとつの足音が聞こえた。ゆっくりと背後を見つめ直すと、見慣れぬ人がジーパンのポケットに手を入れて仁王立ちしていた。その男はアルファに一言だけ問いかけて来た。


「貴様が……アルファか……」


 アルファは鋭い目つきをそうだと言わんばかりにぎらつかせた。


「お前もBCMだな。見かけん顔だが、新入りか?」


 アルファも問いかけざまに喧嘩を売った。見る限り、アルファと同じくらいの年齢だ。張り詰めた空気が生まれる。アルファは既にここから脱出することなど脳天に無かった。ただ、自分の邪魔をするBCMを消滅させる本能だけが全神経系を奮い立たせていた。男の後ろから武装をした警備員達が男の応援しに駆け寄ってきた。彼等は立ち止まった否や、重火器を取り構えアルファにフリーズを要求した。アルファは眉間に皺を寄せて叫んだ。


「邪魔する奴は殺すぞ!」


 聞きなれた言葉なのだろうか、男はゆったりと腕を組み依然仁王立ちしている。そして男は或る警備員にこう耳打ちした。


「アルファは強いか?」


 ガンマ君は勇敢だ……われわれも見習わないと。え? いきなりガンマは耳打ちした警備員のみぞおちを拳で強襲した。流石にアルファも驚く。ガンマはひとつ笑みをこぼすと他の警備員は急に畏怖感を覚え、ガンマから離れ出した。しかし彼らは急に悶え始め、あっという間に気絶した。ガンマはいかにもこれで私達の身の回りには邪魔者が居ないというような雰囲気を醸し出している。アルファもつられ苦笑した。ガンマは殺気立った様子でアルファの半径1メートルの所まで迫り、襟首をつかみ上げた。


「何故笑う? どこも笑えるところは無かろう。アルファ……貴様の方がよっぽど気が狂っているぞ! 数年に渡りカウンセリングを受けていた様だが、何の成果も無いな。実は貴様がやる気が無いから精神が不安定なのではないのか?」


 ガンマはアルファに問い掛けた。しかし、アルファは興味をそそられずさっきまで考えていた研究所脱出のことを実行すべくガンマに背を向け、再度シャッターに向かって拳を振りかぶった。だが、体が急に鈍くなり、息苦しくなる。何故、シャッターに手を伸ばそうとすると動けなくなってしまうのか。ガンマの仕業としか思えない。ガンマは嘲笑した。


 ガンマの行動はアルファの調子を狂わせていった。アルファは自分の心の奥底にある何かが暴走しているのを感じ取った。その暴走は精神の内面から現実の自分を目指してその過程を何の躊躇いもなく蝕みし続けた。アルファは焦り始める。ガンマはその様子を見て俄然戦意を露にしてきた。食らいついてきな! 哀れなハーフBCMさんよぉ! くい留めることのできない虚無感、理性の次元ではないしかし本能の域には達していない『なにか』がもうアルファを支配していた。それに気付いているのか否や、ガンマは未だに挑発をし続けている。アルファは静かに足を前に進めた。その一歩は床に足跡を残した。もはや止められるものはいない。


「よし! かかってきな!」


 アルファはガンマに急接近し、突き飛ばした。ガンマは予想もしなかっただろう。最初はゆっくりとよろけながらも態勢を取り戻せそうだったがなぜかその反動はまだ生きていた。それは更に悪化し、遂には鉄球で突き飛ばされた程度の反動にまで達したのだ。そんな馬鹿な! あいつは未完成だったんじゃないのか? こんなに能力を引き出せているなんてなんか変だ! ガンマは運良く奥の格子にぶち当たり軽い打撲程度で済んだ。彼らは研究所最下層の場所に居る。ガンマの居るところは廃棄処理室、つまり、研究所の端まで追いつめられていたのだ。しかし、彼は焦るどころかますます戦意を引き出していたのだ。


「アルファ、オレをあまり追いつめない方がいいぞ! なにするか分かんないからね!」


 アルファは一言だけ言い放った。


「貴様……面白い奴だな」


 ガンマが疑問の表情を浮かべた瞬間にはアルファは彼の目の前に佇んでいた。アルファの影が廃棄処理室の光によって映し出される。それはアルファの本能を映し出し、消え、映し、消える。アルファの本心は望みもせぬ欲求にただただ寄り掛かりながら本能を見透かしていた。死? 怖くない。誰かがこの僕を支えてくれている。怖くなったらこの人に自分を委ねればいい。だから今は頼りにしているんだよ、もう一人の僕。まるで抜け殻のようになったアルファをガンマは苛立たしく思った。何故此処まできて襲ってこない!! 俺は本気になったお前と戦ってみたいんだ! ほら! さっきやったみたいに俺をふっ飛ばしてみろ! ガンマはとうとう我慢できなく叫んだ。


「おい! いつまでも夢見てんじゃねぇー!」


 ガンマはその怒りに任せて体全体を紅潮させた。それは炎にも負けないほど深紅色になっていた。時として怒りというものは人を覚醒させる。ガンマの体温はどんどん上昇し、数百℃まで達していった。本能のアルファは逆に問い詰めた。


「貴様が永遠に夢を見続けているがいいさ」


 と呟き、最期の別れの言葉をかけながら処理室に向けて殴り飛ばした。強化ガラスも突き破ったが、勢いも衰えない。ガンマは処理室の闇へと葬られた。それを確認するとアルファは急に息苦しくなり、意識が遠退いて行った。


 数日後――政府はBCM研究所の責任者シリウスにBCMの研究の報告を聴くため、政府関係者を派遣した。その最高幹部アルタイルは何人ものセキュリティーを引き連れながら物々しく所内に入っていった。いつもなら慌しい雰囲気な所内は整然としていた。会談室に入ると待ちわびていた様子も無くシリウスは挨拶を交わした。シリウスがどうぞという間もなく椅子に重々しく座ったアルタイルは早速話を切り出した。が、その内容は通知とはまったく別のものであった。


「われわれ政府は貴方たち諸君に身を委ねているのだよ。今後どうするおつもりなんですか?」


 シリウスは震えた手を震えた手で押さえながらぼそぼそと言った。


「だ……大丈夫です。その件につきましては、ベータを量産化技術で既に数体培養済みですので、戦力には劣りはありませ……」


「それで済むと思っているのですか? あなた、どれだけこの研究所に資本を与えているのか分かっているでしょう!」


 汗ばんだ額はよりいっそうてかりを増した。アルタイルは両手で顎づえをつき、上目づかいで彼を見つめる。そんなシリウスをマリコは放っておけなかった。


「会談最中勝手ながら折り入って大変すいませんが、私たちBCM研究所員は大変な労力を尽くして日々研究に励んでおります。寝ずに働くものもいます。休みを潰してまでも。所長もほんの少しでも政府の負担を減らそうと株式をずっと見張っているのです。ですから、仕方ないでしょう?」


「……なにがだい?」


「ですから、我々も最善を尽くしているのですからこれ以上先生を責めないで下さい!」


 アルタイルの眼つきはよりいっそう険しくなり、歯軋りした。マリコはそれを見て恐縮する。鼻で溜め息をつきそっと言った。


「君は今政府に対して敵意に値する言葉を言いました。失礼ですがここから退出願います」


「はい。分かりました」


 マリコは予想していたかのように言って静かに部屋を出て行った。すると、シリウスは額の汗をハンカチで拭った。ハンカチの下では先程まで怯えていた目が豹変した。


「では『本題』にでもいきましょうか……」


 シリウスははきはきとした口調。アルタイルは軽く微笑した。


「例の研究は進んでおりますかな?」


「はい……。『プロジェクトΩ』ですな? まだ不安定でて完成には程遠いよ。つまらん平和のための研究より……は進んでおるがな」


「毎度毎度迷惑をかけてすいませんなぁ。しかし、それが完成すれば我々はヨーロッパ諸国のウイルス兵器の効果を消滅させることができるのですからね。期待してますよ。」


 そして彼等は極秘情報を交わし帰路に立った。



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