第二話/天罰
新しい風を求めて人々は旅に出る。宇宙という果てしないロマンと希望が詰まっている場所へ。地球はもう住みづらいのだ。地球環境は100年前と比べて激変していた。滅亡? その二文字は人類を脅かした。だから旅に出る。その為には莫大な資金が必要となる。到底全部の人間が宇宙に行くのは無理に等しい。人は逃げるしか道はないのか。逃げるのではなく、復旧させればいい。
『なおす』という行為はいつしか人間の遺伝子には組み込まれなくなった。居心地の良くなりすぎた人間の周りには『ゴミ』というものが散乱してゆき、ゴミはゴミという考えは最終的にツケとなって自分に還ってくる。ゴミは最大の資源だという事に気付かない限り逃げるしかない。
BCM研究所の掃除員は破棄されたベータの亡骸を『処理室』に搬送していた。BCMは破棄されると体の構成の都合上、風船のように膨張し、倍の大きさになってしまうのだ。その様子は明らかに目を合わせたくなくなるものだ。むくんだ顔の奥にきらきらと動く何かが掃除員の一人には見えた。しかしそれには構わず『ゴミ』の処理を早く済ませたくてしょうがなかった。
処理室に着くと、掃除員たちの目の前には厳重に厳重を重ねた重苦しい扉があった。電子ロックに虹彩照合、指紋照合、赤血球DNA照合などを経てようやく中へ入室することができる。部屋の中にまた簡単なドアがある。その前に、処理室は細菌などによるBCMの変異を防ぐため念入りにここに設備されている殺菌消毒抗菌ガスを20秒間浴びなければならない。そして、静電気をためない作業服を着、ここで作業へ入る。横長に広がるプールのようなのがある。それに塩素のように青い色をした謎の液体が満たされていた。刺激臭ではない。中に試作と思われるBCMの破棄された物体が数十体と沈んでいた。作業は黙々と進み、彼らの仕事は終了した。
「あー終わった終わった!お前、今から一杯やりにいかないか?」
「ええ。お供しますよ」
彼らは和やかな気分になりこれからのことを打ち合わせし始めた。作業服をトラッシュボックスに入れ、二人は歯磨きをし始めた。上司のほうは10年というキャリアなので今日はじめて実践に取り掛かった後輩を景気付けようと飲み会に誘ったのだ。もちろん割り勘だ。本当はおごってやりたかったのだが、不景気なのでそういうわけにもいかなかった。
「うあ」
上司はふと後輩のほうを振り向くと、青白い色の液体が口から出ているのが伺えた。
「どうした?」
彼の10年というキャリアの勘は冴えた。
「おいお前! 入室する前にここ用の代謝安定カプセルを飲まなかっただろう!?」
後輩は弱々しくうなずきそのまま地に崩れ落ちた。その時、彼の奥に怪しく光る眼が既に標的をロックオンしていた。気配を感じた上司は後ろを振り返った。すると原形をとどめていない謎のBCMが腐敗している別のBCMを使って上司を殴り付ける所だった。上司は咄嗟に近くに置いてある消火器を担ぎ上げ、謎のBCMに投げ飛ばした。BCMの体は腐敗しているせいか、卵が地で潰れた様な感じで肉片が飛び散った。あ、頭を吹っ飛ばしたぞ…BCMといえど再生することは難しいだろう…。上司は後輩を背負い、瘴気に溢れた処理室をあとにした。
3月28日、ヨーロッパ諸国国際連合秘密会談があった。
「これより第1期秘密会談を始める」
「スパイが潜入していると今情報が」
室内はどよめきを起こした。高級閣僚たちは少なからず命を狙われているのかと思っていた。ある女警備員は見慣れぬ隣りの男警備員に疑問を投げかけた。
「あなた見かけない顔ねぇ。どこの部署から派遣されたのですかぁ」
しかし沈黙を貫いた。ただぴくりとも微動だにせず立っているだけだ。
「あのぉ、私の話し聞いています?」
「知らん」
一言だけつぶやき下を向いた。手を背後に組み,顔を上げただけで動作は終了した。
「もしかしてあなたまさか…」
男は誰にも見つからぬよう背中に木製のペーパーナイフを仕込んでいた。そう、警備員なら多少銃刀の持ち物検査が甘くなるのだ。とはいえ、こんな厳重な会談で持ち込めるというのはおかしな話だ。男警備員は女警備員に正面を向いたまま近づき,ナイフを突きつけた。
「死にたくなかったらこれを持っていろ」
「えっ?」
そういって男はナイフを女警備員の腰に差した。そして男警備員は咄嗟に叫んだ。
「こいつだ!!この女がネズミだ!捕獲する」
「え!?」
いっせいにセキュリティーたちが女を取り囲み,女警備員はわけのわからないまま連行されてしまった。男の狙いはここからだった。
「さっきの女の足元に爆弾のスイッチらしきものがありました。除去しますからいったんご退出願います」
怪しまれた。もう少しことが進んでから言うべき言葉だ。男警備員をセキュリティーが取り囲み連行しようとした。
(ふ。悲しい運命だな)
男は手をかたく握り締めた瞬間、男の半径1メートル範囲に爆炎が生じた。その範囲内にいたセキュリティー達はほぼ即死状態になってしまった。
「ぐあああ!た、す、け、て…」
室内はもう火の海と化し、会談どころではなくなった。閣僚は逃げるものもいれば休憩室で茶をすする者もいた。茶をすすっている者はただ一人、エストエンヴェラート社長だ。
「うーん。みんな何騒いでいるのかな。ボヤ並みなのにそんなに騒ぐ必要ないじゃん」
彼の側近が青ざめた表情をして駆け寄ってきた。
「社長! お茶すすっている場合じゃありません。もう近くまで火が移って来ているんです。早く出ましょう!」
依然として茶をすすり、ゆったりと腰をかけたまま言った。
「君、もう僕の側近辞めていいよ。僕の気持ちを100%せん索出来る洞察力がなくちゃ勤め果たすことができないから」
「だけど最後の最後で良い結果を残せたよね。知らせてくれてありがとう」
社長が立つと爆風が彼らのいる部屋に飛び込んできた。その爆風にひるむことなく社長はドアに向かって歩いていった。爆風の中にあの男警備員がこちらに向かって視線をぶつけていた。
「やっとだ。やっと任務を遂行する時がやってきた。こんなシナリオにすることって結構頭を使うんだ」
「君、なに独り言いってんの?」
男はにやりと微笑んでいった。
「冥土の土産におれの名前だけ教えてやろうか」
「うーん。別に知りたくもないな。知ったところで何の意味があるの?」
「エプシロン(エプシロン)だ!くそったれ!」
エプシロンは歯を食いしばって社長に殴りかかった。社長は危機一髪でかわしたが、次の一撃が瞬時に跳んできた。社長はギリギリに避けながらも問いかけた。
「君! さてはBCMだね? だったら技使って襲ってきなよ!」
側近はあごが外れそうなほど口を開け、呆気にとられてしまった。社長…もう私は何も言えません。本当に社長の言うとおりですね。
「後悔するなよっ!」
エプシロンは前方につばを飛ばし手をかたく握り締めた。すると社長は一気に部屋のドアに向かって疾走し、どこかへ去ってしまった。残された側近にその爆炎が注がれた。
「ちっ!」
体が赤く輝いている。幻覚に思えた。側近は不思議な感覚を覚えさせたエプシロンを見たのを最期に息を引き取った。エプシロンは必死になっていたるところを探した。だがどこにも居なかった。
(畜生、どこに消えやがった。ここから逃げることはもうできないはず。火は全体にわたっているんだぞ。)
エプシロンは通信機である人物に伝えた。
「見失った。任務失敗。」
「ジャアダメダナ。イッタン帰ッテ来イ」
燃え盛る火の中、一人の男が大やけどを負って議事堂から出てきたという。
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