第一話/プロローグ
第二節
寂しそうな目をしたシリウスに部屋から見送られながらベータは颯爽と代理人の車の中に乗り込む。そして、片手に持っていた小説を読み始めた。しばらくの間静かな空間が出来上がる。頑丈なガードマン2人に挟まれているのがベータは苦痛で堪らない。ガードマンの体が余りにも巨大で、坐る所がゆったりであってもサンドイッチ状態であれば誰でも苦痛に顔を歪めるだろう。そんな空間も研究所を出て10分後には崩壊するのである。何故ならフロントガラスから洩れる光景が想像絶するものだったからである。1人のガードマンが身を乗り出していった。
「なっ、何だこれは? このザマは。私達の故郷が、ない……」
しかし、ベータは依然として下向きかげんで小説を読んでいる。車の速度を落としてまるで観光旅行をしているかのように彼らは眺めた。すると、廃墟となった3階建てビルの中腹に未確認生物と思われるものが銀色のコップをつかんでじろじろと観察していた。ベータも何時の間にかこの光景の虜となっていた。未確認生物は近くに息絶えた人間らしきものを片手で鷲づかみし、そして血を搾った。その搾った血を銀色のコップに溜めた。この次の瞬間を彼等は目を疑った。未確認生物はその血を自分の目に流し込んだのだ。怪しい光を目から放ちながら1滴もこぼさず使い果たした。すると、体が一時的に赤く染まり落ち着くとまたもとの銀色に戻った。ガードマン2人と代理人、ドライバー、は大きく咽喉を鳴らした。ドライバーは血の気が引き、冷や汗がだらだらで、小刻みに震えている。ベータは車を停めるようドライバーに言い、暑苦しい空間から素早く降りた。滞る時雨は何時の間にか雪へと変わっていた。おぞましい光景が未確認生物を鮮明に映し出す。ごめんだな……。例の未確認生物、あいつだっていうの? だったらさっさと消えてもらわないとね。ベータは水溜りに張る薄氷をぱりぱりと言わせながら目的に向かって歩んで行く。
ベータは突撃するが未確認生物はベータをいとも簡単に投げ倒した。代理人、ドライバー、ガードマン2人は目をまん丸とさせ愕然とした。このままではベータがやられてしまう。だが私たちは祈るのみ。手を貸したくても貸す術が無い。そんな時、彼の携帯電話が一面に鳴り響いた。咄嗟に聞こえぬようスーツを頭まで覆い被せそして不安を抱えながら出てみた。すると、依頼人いわゆる代理人の幹部からの電話だった。か細い声でもしもしと出てみると大きな声でこう返答してきた。
「私だ! 調子はどうだっ? まあまあ気にするな! 金はたーんとやるぞ! 安心したまえ! はっはっはっ!」
かなり迷惑そうな表情を浮かべながら代理人はちょっと慎かにして下さいと頼んだ。しかし、そんなことはかまいなしに大きな声で話し始めた。
「それより、ベータはかわいいのかな? この騒ぎが静まった後でもいい。私の所へ連れてきてくれないか? へへ……。あと、未確認生物は殺してもいい。ではいい連絡待ってるぞ」
代理人は電話を切ると歯を食いしばった。くそ……! 軍事関係のインチキ幹部のくせになにのんきな事考えてやがる! 自分のことしか考えない人間が俺の立場がわかるものか! ああ! わからせてやるさ。貴様の尻尾は既につかんでんだ。スキャンダルさせて世間に恥をさらし、そして……そして俺が……お前の座を奪ってやる! その頃ベータは未確認生物を睨んでいた。未確認生物は得意そうな口調で挑発した。
「言ってくれたね……!」
ベータはよろけながらも未確認生物に向かって一目散に特攻を仕掛けた。
「うわああああああああっ!」
ベータの右手から空気の塊が凝縮されたものが作りだされた。ベータは最期の言葉を問い掛けるかのように叫び上げた。
「この圧縮された空気で消えて……!」
ボーリングの球を投げるようなフォームで未確認生物に向かって投げつけた。避け様にも無い。未確認生物はそれに触れた瞬間、風船が膨張しはじけるかの様に爆死した。この世に彷徨い続けた元凶は此処にて人生のピリオドを打たれた。ベータは目を時々伏せながらも本当に消え去ったかどうか爆発した周辺を見回したが、それらしきものは見当たらなかった。ベータは上着についた埃を払いながら代理人の居る車へと向かった。しかしベータは車に近づくにつれてただならぬ胸騒ぎを覚え始めていった。それは現実となった。ガ−ドマン二人は邁進し、ベータの両腕を固め、そのまま車に乗り込んだ。ベータは冷静に何事? と代理人に問いかけた。代理人はそれに答えることなく、運転手に未確認生物の遺体場所へ行けと命令した。車が走り出してすぐ、代理人はアクセントを強めて言った。
「私たちはあともう一つの目的があってあなたを呼んだ。それは例の『未確認生物』を倒せといった軍事関係の幹部すなわち依頼人を暗殺してほしいという勝手ながらの私の願いだ」
「それは出来ません」
ベータははっきりと言った。
「じゃあ何故『未確認生物』を殺すことは出来たんだ?」
少し憤激して質問した。
「あれは人に被害を及ぼすだけでなく地球もを破壊するから斃した。だけど私を利用してそんな暗殺を企てるなど……できないです」
「そこをなんとか、頼む!」
嘘っぽい演技を曝した代理人は返答を心待ちにしていた。ベータは呆れ返っていた。
「嫌です」
「く……」
代理人は意味がわからず目をまん丸とさせ、ベータを凝視した。その時代理人の携帯電話が鳴った。やはりあの幹部だ。依頼人は代理人の浮かない顔を見て、
「んっ? どうした。あー、『未確認生物』斃したか? あー、近くにベータちゃん居るのか? ほら。どーした。なんか言えよ」
ベータは一瞬だけ鬼の形相をした代理人の心を垣間見たのだった。
「えー……今から『未確認生物』の遺体の回収――」
「なあなあ! ベータちゃんは近くに居るのかい? 居たら変わってくれないかい!?」
「見せてやるよ。てめぇのところに帰ったらな!」
「んんっ? 何だそのいいぐ――」
代理人は依頼人が喋っている途中にも係わらず回線を断った。ベータにむかって同情を誘うような声で言った。
「ベータ君! これでも私の気持ちが伝わらないのかい? 嫌でもあいつのことがムカつくでしょう?」
ベータは眉をひそめて「分かりたくもありません」と言い残し、車から降りようとするが、ガードマンにがっちりと固定されているので実行することはまず不可能だった。暑苦しい空間からいち早く逃げたい……。なんで私が戦わなきゃいけないの? 私だって普通の女の子になりたい時だってあるのに……。ベータは戦意喪失となった。黒い歴史に白い雪が降るこの時はベータにとって何の癒しにもならなかった。
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