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第一話/プロローグ

第一節


 Bionic Catalyst Man……後々BCMの開発によって様々な歴史にまで残る壮大なドラマが繰り広げられる。


 ある晩のこと、博士はBCMの試作プロトタイプ1型の最終出力調整を行なう予定であった。この博士は不運なことに、自分が研究のために厳重保管しておいた未確認生物が突然保存溶液から這い上がり、博士を死に追いやった。このことは瞬く間にマスコミや新聞社に情報が広がり号外が飛び舞った。

 博士とはカーマイン=ロバート氏で去年、BCM開発科学・生物工学賞などの賞を受け取っていたばかりではなく、同人や人々にも少しずつ期待されつつある時だった。

 なぜ、期待されているかというとBCMは当初そんな概念などまったくなく、バイオテクノロジーなどは条約で禁止にされているほど危険なことをもたらすものと多くの人々に認識されていた。

 しかし、カーマイン博士は孤独と根気のいる研究の末に微々たるだが同感してくれる仲間を増やしていった。そして、やっとの思いで条約を打ち負かす程の成果を次々とだし、学界の頂点の名誉を得るほど上り詰めた。……しかし、この名博士はもうこの世にはいない……と人々は悲しみに明け暮れていた。


 翌日――ニューヨークにあの未確認生物が押し寄せてきた。政府は、最新の兵器や機動部隊などを何の押見もなく配備した。未確認生物は約2メートルでそんなにも他人の目で見ると大きくはなかった。だが、ニューヨーク市民は途轍も無く大きく見えているだろう。未確認生物は手を大きく弧を描くように地に振りかざし、突風を巻き起こした。木の根を剥ぎとり、車を埃のように舞い上がらせ、人々をパニックに陥れた。最新鋭の戦車の主砲でも突風のため照準が定まらず撃てなかった。政府は考えた。地上が駄目なら空中からやるしかないと。すぐさま空中部隊は未確認生物に標準を合わせ狙撃準備を整えた。指揮官の狙撃開始の命令が下った。と、あるパイロットが何かに気付いた。


「未確認生物が……こちらを向いて笑っています!」


 指揮官は構わず撃て! と叫ぶ。そして激しい雨が未確認生物に降り注いだ。その後、2分間に及ぶ豪雨は静かに止んだ。パイロット達は未確認生物が居たところから噴煙が立ち上る中、肉眼で目を凝らして様子を伺った。そして、本当の雨が静かに降り始める。それによって硝煙は瞬く間に消えた。重く空に伸し掛かる雲は彼らの運命そのものを映しているようだった。あるパイロットは言った。


「しかし今日は朝っぱらから妙に静かなんだよな。いくら曇天とはいえ、愛犬のビリーが日課の朝風呂に入りたがないなんてよ。おかしいぜ、今日に限ってこんなことがあるもんか……」


 刹那の間に下の地上部隊から爆炎が揚がった。やはり未確認生物は生きていた。地上の勇敢な戦士達は未確認生物に襲われ何の手立てもなく殉職する者が多々続出した。地上部隊を殱滅すると、未確認生物は空中部隊に語り始めた。


「貴様等ナンカニヤラレルモノカ……! 聞コエルゾ。タダノ捨テ駒ニ何ガ見エル? ソウ、死ダヨ。空中ダカラトイッテ安心スルナ。今スグ地獄ヘ葬ッテヤルカラナ……!」


 こう問い質した瞬間、未確認生物は真上に飛び跳ねた。空中部隊は必死の抵抗をし始めたが、目に見えない膜が未確認生物を包み込んでいるように思えて機銃が掠りもせず地上に降り注いだ。


 そして最後の一機が黒い煙を吐いて地に飲み込まれていった。残骸空間だけが未確認生物の目に映っていた。彼は、まだ物足りなく人々が隠れていそうな場所を見つけだし発見した折には人の畏怖感に満ち溢れた顔をじっくり観察しておいて、飽きたら惜しみなく殺戮した。政府はこの事態を深刻に考えたが大都市に『核』を使うわけにもいかず、現代兵器では太刀打ちできないことを自覚した。もはや頼ることができるのはBCMただそれしかなかった。


 その頃カーマインBCM研究所では、あるBCMの最終調整に急いでいた。そう、あの日カーマイン博士が残したBCM1型を幾度の試験によって合格したただ一人の少年に投与したのだ。その少年の名は『アルファ』。彼は、幼い頃に酷い家庭内暴力・虐待を毎日のように受けていて、見かねた近所の人がこっそりと親たちが目を離した隙に連れ去り、養護施設に預けられた経歴を持っている。彼は人を信じない。例え、気の許せる友人やカウンセラーさえも。アルファは、催眠療法による精神安定を図っている最中である。カウンセラーは、温かく優しい声で暗示している。一方アルファは、じっと俯いたままだらけている。


「はい、いいですか……。君は楽しい毎日を送っています。悪いことは何一つありません。明日が待ちどうしいぐらいです…」


「わーーっ!」


 アルファは、いきなり両手をばた付かせながら叫び狂った。現実を避けるが如く、悲しみの声がカウンセラーの声を掻き消す。カウンセラーが暴れるアルファを必死に暗示をしながら鎮静させようとした。しかし、膝蹴りがまともに左側腹部に命中しよろけてしまった。 
 はやこの子をカウンセリングして3年……本当にこのアルファという子は普通に社会復帰出来るのだろうか? いや、できる筈がない。3年もしているのに何の成果もありやしない。諦めよう。私の手に負えるものじゃない。どんなに期待が係っているとしても率直な意見、この子は生きている価値がない。カウンセラーはアルファのカウンセラーを辞退する事をBCM研究所所長シリウスに伝えた。


「そうかね……。長い間ご苦労様」


「辞退といえば辞退ですが、時折カウンセリングしにこようかと思っています」


「ふむ。気が向き次第帰ってくるといい」


「はい。色々とご迷惑をおかけしました。それでは失礼します」


 そう言い残してカウンセラーは所長室から去った。


 彼がやらないとすれば誰がやるのか……。研究所所長、シリウスは頭を抱えた。その時、『ベータ』のカウンセリング兼シリウス秘書をしているマリコが整然と入ってきた。


「所長、ベータの事でお話があります」


「マリコ……いきなり大声で喋らんでくれんか……。ワシはもういい歳だからいきなり声をかけられると心臓発作でポックリ逝ってしまうではないか……」


「すいません……。あ、話といいますとベータの最終調整が完了しました。これであの未確認生物も消滅させるぐらいの力を発揮できると確信しています」


 シリウスは白いマグカップを手に取り、カプチーノを啜った。その掌には薄く汗を噴き出させていた。そして、飲み切ったカップを静かに置いた。


「それならば、政府に報告してやるか。奴らはワシらを便利もの扱いしくさってるだけで、何の『飴』もくれやせん。まぁしかしここは人類のためだから良しとするか。」


 返答は即時に必要とするので直ちにそちらに遣いをまわすとのことだ。シリウスはベータを呼びだし、事情を説明した。ベータは15歳の女の子で優秀そうな顔つきだ。


「すまんな……。調整が終わったこの日に仕事を与えてしまって」


「……」


「不満な気持ちもわかるが、こちらの身としても考えてほしい」


「……」


 ベータは、無表情で話を聞いていた。シリウスは自分の席をベータに譲り、そして肩を揉んであげた。窓の外では激しくなった雨が窓に吹き付けている。ベータは頭を後ろに振り返らせてシリウスの目を見つめた。肩揉みを止める。雨の音がまるでBGMを奏でているようだ。


「お父さん……」


「……」


 シリウスはベータに見つめられたとき、あらん事を頭に描いてしまった。静かな空気の中、内線が入った。内容はベータのお向かいのことだ。ベータは、所長室を出る時ぼっと立っているシリウスを振り返って見つめた。眉間に皺を寄せている。ベータは一言だけこの部屋に留めておいた。


「……行ってきます」


 所長は笑みで返した。


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