イヌペン 第3話(小説版原作作成日:1999年頃)
原題
行方不明
まっさかさま
イヌペン危機
ある日天気のいい朝でした。イヌペンの育てている植木鉢に芽が出ていました。それを見たイヌペンは春を感じました。どんな花を咲かせてくれるかなと言っているイヌペンの背後から、丸い物体がゴゴゴと音を立てて空から降ってきました。その物体がイヌペンの横をかすめて、植木鉢へとナイスインしました。イヌペンは落ち着きまくって、ニコニコしながら丸い物体を片手で持ち上げました。そこには丸い物体のせいでぺっちゃんこになった芽がありました。それにも関わらず、何事にも穏やかなイヌペンはニコニコしていました。そのまま家の中へ入っていきました。ようやく怒ったっぽい素振りをみせました。
「あーっ! 誰だオレの大切な芽の命を奪ったやつは! でてこいボール投げたヤロー!」
「あのー」
突然誰かの声がしました。イヌペンは腹が立っていたので、
「ああ!? ボール投げたやつだったらぶっ殺すっ!!」
と、荒っぽく言いました。しかしすぐに冷静さを取り戻し、「で……誰?」と、窓を開けました。目の前には筋肉もりもりのムキムキのマッチョな、覆面マスクをかぶっている怪しげな男がいました。
「このへんにBALL飛んでこなかったか」
なぜかボールの発音がよかったのですが、イヌペンはなんとなく敬語で答えました。
「え? あれは貴方様のおボールで?」
イヌペンはボールを取ってきて、「これでございますか?」と言いました。怪しげな男はボールを受け取ると、「どーも」と言って帰って行きました。イヌペンがふうとため息をつくと、後ろから声がしました。
「ボール投げたやつをぶっ殺すんじゃなかったのか? イヌペン」
イヌペンはびくっとしました。いつの間にかライビンがいたのです。
「っていうか、勝手にひとんちに入んなよ。……で何のよう?」
ライビンは少し緊迫した表情で言いました。
「サボンが行方不明だ……」
それを聞くとイヌペンはちょっとあきれ顔をしました。
「ったく、サボンは次々と事件を起こすんだから。もう!」
ライビンはサボンの行きそうな場所をイヌペンにたずねました。しかしイヌペンはふざけた事をいうばかりで、なんの収穫もありませんでした。急にどこからか悲鳴が聞こえました。ライビンは全神経をその方向へむけ、イヌペンに指示を出しました。
「おいイヌペン。窓の外をみてみろ」
「わーった」
イヌペンはそう返事をして窓の外をのぞきました。そこには、さきほど出会った怪しげな男がかぶっていた覆面マスクだけが、もぞもぞと動いていました。顔を真っ青にしたイヌペンがあっけにとられていると、マスクは「ぎゃっ」と静かにいいました。イヌペンはマスクの中に誰かが居るということを悟って、「助けてほしい?」とききました。マスクが「うん……」と言ったので、イヌペンは勢いよくマスクを取り除いてやりました。そこから現れたのはサボンでした。
「どうしたの?」
イヌペンはききました。
「実はさあ、家に居たら変なマッチョが入ってきて、抵抗する間もなくマスクに閉じ込められたの!」
サボンが説明をしていると、突然イヌペンは震えだしました。サボンはおしっこしたいんかなーと思いながらも、「どーした?」とききました。するとイヌペンは指を差し、その方向をみてみると例のマッチョがいました。サボンは一瞬にして今の状況を理解し、おもいっきり「あああああ!!!」と叫びまくりました。驚いたサボンは気絶し、それにつられてイヌペンも一緒に気絶してしまいました。
イヌペンが気付いたときには二人とも大きな覆面マスクに覆いかぶせられていました。何も見えないのでどんな場所に連れて行かれたのかもわかりません。どこからともなく低くて太い、しゃがれた声が聞こえてきました。
「……手間とらせやがって」
冷たい視線で二人を見下ろすマッチョマンが言いました。イヌペンははっきりと反論しました。
「あのときボール拾ってやったじゃん! なんでこんなことすんだよ! 助けろよ!」
「ダメだ」
マッチョな男は即答しました。するとイヌペンは甘ったれた声で言い返しました。
「おーねーがーい」
「ダメだ。可愛いこぶっても」
イヌペンは悔しさでいっぱいでした。そのとき、となりのサボンの様子がおかしいことに気付きました。いくら呼びかけても返事がありません。ただもっさもっさとうごめいているだけです。イヌペンはそんなサボンを放っといて、別のことを考えました。
(ライビンはそばにいるのかな。いや居ないな……。どうやったらうまく逃げられるかなー)
ひとつの考えを思いついたイヌペンは、男につげました。
「あのー……となりの友だちがおしっこしたいって」
「うそつけ」
あっさり男に見破られてしまいましたが、イヌペンは負けずに言いました。
「ほ、ほら、うなずいてんじゃん!」
本当はうなずいていませんでした。それを聞いた男は、
「じゃあ、一緒にトイレに連れていってやりな!!」
そういって二人を蹴り飛ばしました。ただ蹴られただけなら良かったのですが、二人の居た場所は崖っぷちでした。そのままイヌペンとサボンは崖から落ちていきました。落下するスピードで二人の覆面マスクがとれましたが、サボンは気を失っているままでした。
「サボンっ!!!」
イヌペンは叫びましたが、サボンの気付く気配がひとつもありません。崖下には大きな岩がありました。イヌペンはとっさにサボンをつかむと、やわらかな茂みのほうへ押しとばしました。
(サボン……無事で……!)
そう思った瞬間にドカッと鈍い衝撃が響きました。
森の茂みの中にサボンはいました。茂みにぶつかった衝撃でようやくサボンは目覚めました。
「あれ……? オレはどうして……ここは? イヌペンたちは?」
ふらふらとしながら茂みを抜け出しました。目の前には大きな岩々があり、その地面の下に血まみれ姿のイヌペンが横たわっていました。サボンはその光景をみるやいなや、イヌペンを慎重に担いで病院へと走っていきました。
病院でイヌペンの緊急的な治療が行われました。まもなくして治療室からイヌペンは担架で簡単な個室へと運ばれました。包帯だらけですがイヌペンは大事には至らなかったようです。意識を取り戻したイヌペンは、同じく包帯姿のサボンに声をかけました。
「あ……サボン……良かった、無事だったんだね……」
「なに言ってんだよ……自分が……そんな怪我してさ……」
サボンはじわっと涙が出てきちゃいました。色々と悟ったサボンは、細々とありがとうとイヌペンに感謝しました。
「いーの、いーの」
イヌペンは微笑みかけました。思い出したように続けます。
「そういえば、あのマスクはどこ?」
「マスク?」
サボンは感動の余り覆面マスクや男のことを忘れかけていました。
「うん、ほら、あのマッチョのマスク……」
それを聞いてようやくサボンは思い出しました。多分あの崖下にあるんじゃないかと伝え、そしてマスクがどうしたんだとイヌペンに聞きました。
「ほしい」
イヌペンは大きくはっきりいいました。サボンはなぜマスクが欲しいのかさっぱりわかりませんでしたが、命の恩人のお願いなのでマスクを拾ってきてあげることにしました。イヌペンはすかさず「あんがと!」とお礼を言いました。
あのあと、イヌペンの家にはいい感じでマスクが飾られていました。マッチョマンの行方や目的はいまだ謎のままです。
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