イヌペン 第1話(小説版原作作成日:1999年頃)
原題
ジャマ!
あるく
ぬけぬ!
ぬけたのに…
ストーカー
或る一軒の家にえたいの知れない生物が住んでいます。その生物は植物をこよなく愛し、詩を書いたり、歌を歌うことが主な特技です。その生物は『イヌペン』と言う可愛らしい名を持っています。
そんなイヌペンはやたらと外が騒がしくなっているなと感じ、部屋の窓から外を見ました。豆っぽい生物と若干ふっくらとしている女の子が、イヌペンの家の前でなにやら雑談をしている様子が伺えました。イヌペンはそれを窓越しに盗聴していました。このことが天罰してしまったのか、女の子に盗聴しているところを目撃されてしまいました。女の子はすかさずイヌペンにひとさし指を指し、
「あ。なんか居るーっ」
と、間延びした口調でまめっぽい人に言いました。豆っぽい人もどんなものだか見たいものなので、己の身よりも高い窓まで軽くジャンプしました。その瞬間、イヌペンは殺気を感じ取ったのか、力強く雨戸をひきました。それによってイヌペンを目撃することができませんでした。豆っぽい人は見たい気持ちがパン生地のように膨脹し、破裂しました。
「おーい!! 開けれ〜!!」
雨戸をドンドンと叩いて応答を待ちました。しかしイヌペンは『黙』を貫き通しました。雨戸をたたく騒音が治まった数秒後、イヌペンは微笑み的な表情をしながら、はっきりとした口調で「断わる」と言いました。イヌペンの背後にあるココアが、チョコレートの匂いを部屋中充満させています。豆っぽい人はキレました。おおいにキレました。
「くそぉ!! どーしても見てー!!」
女の子は半分あきれた顔で、
「ねぇ、帰っていい?」
「ああ!! ぜってー見るっ!」
そして女の子はケッと言葉を吐き捨てました。多分この人は内心、心が黒ずんでいるのかと思います。豆っぽい人は改めてドスンと腕を組みながら腰を下ろし、けわしい眼をしました。
「出てくるまでここにいっぜ!」
次の日――
(早く出てこいって!)
三日後――
(くそー……腹減った……)
四日後――
この頃になると、得体も知れぬ生物よりも食欲のほうが頭の中を巡ります。はぁはぁと吐息を切らしながら(ごはん……)と念仏のように唱えていました。イヌペンは雨戸の隙間からこの一部始終を毎日確認して、日記に書いていました。そして今日はまちに待った豆っぽい人が疲れきって寝た日です。そぉっと覗いてみると……。
「うんうん……天使の寝顔だぜ」
と、いってしまうほどよく寝ていました。そしてその寝ている内に自分のテリトリーから取り除くべく、忍者の如く走りました。しかし途中で転んでしまいました。何もないところで転びました。「げっっ!!!」 と思わず叫んでしまいました。それを引き金に、豆っぽい人は永遠の眠りから目覚めました。なぜか口から鮮血を垂らしながらムクリと起き上がりました。転んでくるイヌペンを受け止めるかのように両腕を大きく横に広げ、「来い!」と渾身を込めて叫びました。
ごろごろごろごろ……とイヌペンは豆っぽい人にめがけて転がってきました。その結果、豆っぽい人はイヌペンと衝突しました。かなりの衝撃があったのか、そのまま豆っぽい人は白眼を剥いて遙かかなたまで吹っ飛んでいきました。その後の彼の行方は誰も知りません。夜空に輝く星のひとつに、『まめっぽい星』と名付けた人物がいるという事実を知る者は数少ないそうです。イヌペンはすぐさま、この今の気持ちを作詞しました。
題/まっぴるま 作詞/イヌペン
まっぴるまに
変なみどりの歩行物体が
やって来た oh
じゃまー じゃまー じゃまじゃま パジャマー
僕の大切な踏み荒らされた
イヌペンは踏み荒らされたパンジーの花壇を精魂込めてなおしていました。そこに、また意味の分かんねー奴が「おーい」とか言いつつイヌペンを呼んでいました。イヌペンははっきり言って、「ちょっとびっくりした」が本音でした。なぜなら、この野郎は石(水晶)のくせにして手足が生えているということです。イヌペンは危機を感じて逃げ出しました。しかし、相手は何を思っているのか分かりませんが、ダッシュで追いかけてきます。眼は優しそうなんだけど……。うわっ! 本気で走ってきた。こわっ!! はぐき見せながら追っかけて来やがる! 誰か助けてっ……!
このお願いを誰かが聞き入れたのか、この石に誰かがいじめるな……と囁きました。この人物は電柱の天辺に立っています。この石は立ち止まり、くるりと後ろを向きます。イヌペンは依然としてこの石と距離を離しています。石はその人物がある一本の電柱の天辺に立っていることに気付きました。それをずっと待っていたのか、電柱上の人物はようやく言葉を発しました。
「よぉ。オレ『サボン』」
なぜかサボンはため口でした。サボンは数メートルもある電柱から飛び降りました。しかし彼はすとっと軽い音で降り立ちました。その後、「ん」と言いました。石は目をぱちくりさせて、この「ん」という無意味な言葉を不思議がっていました。それをよそにサボンは、「イヌペーン」と叫びながら後を追いかけていきました。イヌペンはこの声を聞いて気付いたのか、くるっと180度回転してあんどの表情を浮かべました。
「よぉ。何してんだよ」
「変な、石っころに追いかけられてたの。それより、せっかくだからライビン家に行かない?」
「そ。じゃあ、オレも行く」
この時、イヌペンはあることを閃きました。
題/あるく 作詞/イヌペン 協力者/サボン
あーるく あーるく サボちゃんと
歩いて 走って イヌペンは
また あーるく
ぶっちゃけた話し、サボンは(なんで歌ってんだよ……歩く、歩くって)と心のうちに思っていました。サボンの目はすわっていました。
「あーるく、あーるくサボちゃんとーっ」
いきなりまた歌い出しました。イヌペンは気持ち良さそうに奏でています。サボンはというと、何か自分の事を歌われているので恥ずかしくなって、他人の振りをしようとイヌペンから遠ざかりました。しかし、イヌペンは息を一つ乱さずに追いかけてきます。サボンは焦ってしまいました。と、イヌペンは急に歩きました。サボンは思いました。(何だ……歌の通りに走ったり、歩いたりしているのか……)気がついたら、ライビンの家からかなり遠ざかっていました。やはりイヌペンの歌に振り回されていたからでしょう。
ライビンの家――
イヌペンは玄関のドアの近くにあるドアベルを鳴らしました。ライビンはインターホンで、
「よう。イヌペン、勝手に上がってくれ。ちょっと今……動ける状態じゃないんだ」
サボンは驚いた表情で体が小刻みにぴくっと動きました。そして思わず、動けないっ!? と言ってしまいました。ライビンはこの声で気付いたのかイヌペンの他にサボンが居るということを把握しました。
「おお、サボンもいたのか……今マジでやべぇんだ! 動くと割れる」
サボンは、「割れる……?」と、疑問に思いました。
「まぁ……うん……」
と、ライビンははっきりしない態度をしました。サボンは「どうしたんだか知らないけど、とりあえず家の中に行くぜ」とイヌペンに言いました。ライビンも早口でそうしてくれと言いました。
「ライビーン何処に居るんだー」
「リビング」
ライビンは震えた声で答えました。やっとたどり着いた二人はライビンの姿を見て、思わずイヌペンがジャンプしてしまうほど驚きました。
「ねぇライビン……何のまねなの? その格好」
ライビンは自分の趣味でもある、ろくろで造った自作の壺を誤って下半身にはめてしまったのです。その格好はなんとも無様なものでした。イヌペンはにやけてしまいました。ライビンはいかにも気にしてそうに笑うんじゃねーと強く言いました。サボンはというと数秒前に匂ってきた風の流れをナイスキャッチしていました。すごくいい薫りかなぁと思い、かんでみたらさっきまでの和やかな顔が極端に険しくなりました。死にかけました。それはおならだったのです。イヌペンは申し訳なさそうに、
「ごめん! 『屁』しちった!!」
サボンは口が引きつっていました。イヌペンは汗をだらだら出ていて顔面蒼白でした。ライビンが割り込み、喧嘩やるなら外でやれと言わんばかりに落ち着いた顔で言いました。
「まあいい……ちょっと助けてくれ! こんな姿家族にみられたくない」
サボンはライビンの質問に応答しました。
「もしかして……! そのライビンがはめてる壺を」
「そ!!!」
ライビンは即答し過ぎました。サボンはライビン答えんの、はやっ!! と思うしかありませんでした。
三十分後――
サボンは相変わらず抜けない壺を生真面目に抜こうとしていました。サボンはライビンの甘い言葉にのせられてライビンを絶望の淵から助けています。この時ようやくこのことの事態を十分飲み込んだイヌペンが近づいてきました。
「何? とれっつーに? そんなの……わかんないって」
サボンはこの言葉を聞き流してある事を思いつきました。それはとても単純なことです。壺を抜こうとするのではなく、割ればいいのです。しかし、この方法にはデメリットがあります。それは、人身事故が起こりうる確立があるからです。ライビンは結構太っていて、体が壺に密着しているからです。サボンはこのことを踏まえて、静かにライビンに「せーの」と言ってやりました。ライビンは、何? なんなの? と目をぱちぱちさせて虚をとられていまいた。
「おりゃあ!」
サボンはそういってライビンにサマーソルトを仕掛けました。ライビンは天井ぎりぎりまで飛ばされました。ライビンが慣れたようにくるっと着地したときには、壺からからだが開放されていました。イヌペンは何よりも先に喜びました。ぴょんぴょんと跳ねました。ライビンは喜ぶ暇もなくイヌペンのほうに行きイヌペンにあんまり跳ぶなって……と注意を呼びかけました。しかし、この時点でライビンに思いも寄らない事態がすでに始動していました。イヌペンの頭上には幾つかの壺だながあり、そこの壺がイヌペンのお茶目な行動によってライビンの頭上めがけて落ちてゆきました。ずぼ。一同静まり返りました。ライビンはぎゃああと壺の中で声を反響させました。サボンは頭だと流石にサマーソルトはできんなと考え、とりあえず目と口の所だけ風穴をあけてやるかと心で思っていました。数分後、ライビンは自力で壺を取り外しました。そして目を真っ赤にさせて言いました。
「ごらーっ!! 誰だっ! 壺落としたやつぁ!!」
サボンは知ーらないっとという感じでいました。なぜかイヌペンはふふふと微笑んでいました。ライビンはそれに反応して、イヌペンのほうに首を曲げて睨みました。イヌペンはすかさず、サボンのせいにしようと言葉を巧みに操りました。ライビンはハッキリいって、誰でもいいから八つ当たりがしたいだけだったのです。したがって、ライビンは目もとを暗くさせて、「てめぇ……」とサボンに向かって悪罵しました。サボンは人に物事を擦り付けるのが癖なので、イヌペンに再度悪事を擦りつけました。しかしイヌペンはうるんだ眼をして震えました。潤んだ眼が「言わないで……」とでも言っているようです。
(ぐわ〜っ! そんな表情するなってばよ! オレのせいにしろっていいのかぁ!? 馬鹿言え! オレ何もやってねーのになんでライビンに怒られなくちゃいけねーんだよ!!)
サボンはこのように心のうちで思っていました。しかし現実は、潤んだ瞳を更に磨きをかけ、眉間に可愛いしわを寄せているイヌペンがありました。サボンはこの現実に打ち勝てなかったようです。小声で「しゃーねーな……」と言い残してライビンの前に立ちました。ライビンは強ばった表情をするサボンを見て、
「おっ……なんだよ」
と、こもった地声で罵りました。依然としてサボンの表情はそのままです。イヌペンといえば見守るだけしか手段は選べません。
「おれが壺を落とした」
三人はおおはしゃぎしました。ようやく壺の件から解放されて喜びまくりました。こうして陽はだんだんと暮れていきました。
その後――
そこには、イヌペンとサボンとライビンの3人の時だけが止まっていました。なぜなら、ライビンがまた下半身に壺をはめていたためです。サボンは呆れていました。原因はライビンの不注意です。ライビンがジャンプをしていて足を地に下ろすとき、ぐきっと足をひねってしまいました。全体重をかけて倒れました。その時の状態は逆立ち状態でした。なぜか上からライビンが最も大切にしている壺が落ちてきました。そして今の状態になりました。
さすがに自分の大切にしている壺は割りたくないので、そのまま一生を送ろうと決心付けていました。サボンとイヌペンは黙ってライビンの家から颯爽と出てゆきました。途中でイヌペンはサボンに別れを告げ自宅へと帰っていきました。サボンはその様子をしばらく眺めていました。すると、何やら電柱の陰でこそこそと動いているのが伺えます。サボンは最初は不思議に思っていましたが、それが今流行りのストーカーだということが分かりました。サボンは勇気と知恵を絞り切って、
「おい! そこ電柱のお前! ここで何をしている! ストーカー行為の容疑でうったえるっぞ!!」
と、警官っぽい口調で言いました。このストーカーの男は驚いた表情を何一つ見せずになんでもねーよと言いながら、鼻からぶふ〜っと勢い良く汚息を吐き捨てました。サボンは何を思ったのか、どーでもいいような感じで、
「そ。んじゃあ」
と、歯切れよく言って家路へと戻っていきました。男はまず、「さて……」と邪悪な声で言って影へ溶け込もうとしました。しかし、探せどもイヌペンの姿は見当たりませんでした。
イヌペンは変な奴に踏み荒らされた花壇の手入れを行なっていました。結構早めに処置したので花達もほっと一安心です。イヌペンは何もすることがなくなってしまったので、とりあえず家の中へと入っていきました。
その頃ストーカーの男はやっとの思いで、イヌペンの家にたどり着きました。イヌペンはしっかりとこの様子を窓越しで観察していました。男に見られていることに気が付くと、イヌペンは即座に雨戸をバンッと音をたてて引きました。すると、さっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返りました。イヌペンは心を落ち着かせました。男は家のかぎがロックされてなかったことに気付き、足音を立てないよう、ほふく前身で先へ先へと未知なる領域へと足を踏み出していったのです。そして、イヌペンがいると思われる部屋の前に来た瞬間! 頭上にあるスポットライトが男を照らし、『防犯センサー作動防犯センサー作動』とナビゲーターの声まで聞こえてきました。男はキョロキョロとあたりを見回しました。怪しいものなどありません。怪しいのは自分だけです。そこにイヌペンが目の前に現れました。
「ばかだな……くっくっくっ……ここの通路には赤外線センサーが網の目のように張り巡らされているのにこんなこともまったく気付かないでのんきに僕の家へ遊びに来ちゃってさぁ……だから僕は君のことばかだなーってゆったんだよ?!」
「あんだとぉ?」
「そんでもって……」
イヌペンは悠然と体を一時的に重力に逆らう行為をしました。その足下には正四角形のタイル式スイッチがありました。そして、かちっと音が鳴りました。男はイヌペンに見入っていました。男の腹あたりから床が内側へ開きました。まるで、朝のゴミステーションに来るゴミ収集車が生ごみを巻き取るが如く、男を包み飲み込みました。ずるっと音をたててどっかへ落ちていきました。イヌペンは「落とし穴」とにやけながら言いました。男がこの余から姿を消したのを見送ると、「あ〜すっきりした」と爽快かつ和やかな雰囲気に包まれていました。
「ああ……黄昏てる」
イヌペンは最後に詞を作りました。
題/たそがれ 作詞/イヌペン
夕方の心地よいときに
黒い くろい、パンツ一丁の
男は21歳独身ヤロー(推定)
お父さん! この男の親御さん! 実はこの人……
げすヤローだったんですぅ!
おー! おー! ベイベー!! たそがれてるゼ ロックンローラー!
こうしてイヌペンの淡く楽しい一日が幕を閉じたのです。
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