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第十話/BIRTH A USELESS FELLOW




 一年に一回の研究所内の大掃除が早朝から慌ただしく始まった。所長のローも勇んで参加し、整理整頓を手伝った。しばらくすると、ある書物の隙間から極薄のディスクが滑り落ちてきた。研究生が怪訝な眼差しで手に取ると、ローが早足で近づく。

「少し借してくれないか」

差し出されたディスクを受け取ると、不気味な半笑いでローは勝手に持ち去っていった。


 実は心当たりがあった。すぐさま自室へ戻りディスクを特殊な機械に通して、内部のデータを読み出そうとする。予想通りパスコードを要求された。ここでパスを通すと、ズラズラとパソコンのディスプレイに文字が並んでゆく。

「ふふ……こんなかたちでこれが手に入るとはねぇ……」

暗闇の部屋にほくそ笑むひとつの顔が青白く浮かんでいる。その顔さえも空に浮かび、闇に飲み込まれた。ぼんやりと文字を映し出しているディスプレイも主人とともに光を失っていった。

『Ω』


 ローしか入室することが許されない完全独房の研究室。そこには得体の知れない肉塊や事故死した原型をとどめていない人間、培養液に浸かる植物などが整然と保存されている。ローは大人ひとりすっぽりと収まる程の『水槽』にBC溶液を注ぎ、次に冷凍保存された性別不詳の人間の死体を入れ、最後に例のカードのデータを解析した情報をBCM精製機にインプットさせる。

「カーマイン殿……そして哀れなシリウスよ、おまえたちの『夢』を私が叶えてやりますよ。完全なカタチとしてね」

ローは水槽を眺めながら思った。しかしディスクの内容に驚きましたよ。オメガのことだけでなく『裏』のことまで記録されているなんてね。カーマイン殿の成した事へ尊敬と賞賛の意を称する。あなたという人は本当に人類の行先を考えていらっしゃったんですねぇ。

「おっと、出来上がったみたいだな。さあ! 私に見せてくれ、その……」

ローの目の前にあったのは酷くふやけた遺体だった。とてもオメガとは思えないほどの容姿だった。大きく腕を広げたローはその硬直を崩し、飛び出さんばかりに眼を刳り出して喚いた。

「ふ、ふふぅ、なんなんでなんでなんなんだ、この体はぁ。精気がないじゃないか、おい」

そうだ。元々遺体なのだから死んでいて当然だ。しかし記録には『遺体を用いろ』と書いてあったんだぞ。記録に間違いでもあるのか。それか私がディスクを手に入れる前に何者かが入手し、データを改ざんしたのか……。ローの腕がブルブルと震えだす。一気に血の気が引くのがわかり、同時にめまいを起こし地に崩れた。

「薬……薬を飲まねば……。……ぐあっ!」

肉塊みたいなものが脚の辺りにのしかかった。恐る恐る振り返ると、遺体の手はローの脚を捕まえていた。



 俺はガンマ。第一話以来活躍の場がない。そんな俺はBCM研究所の発電室に居る。活躍できなかったのはここにずっと隔離されているからだ。俺のBCMとしての能力は『高熱を発熱』することだ。もうわかるだろ? 俺がBCM研究所で使われる電力の10%を発電しているんだよ! 俺は道具扱いかよ! ふざけるな!

「こら。愚痴ってないでさっさと発電する」

俺が脱走しないように見張りが始終監視している。見張りをしているその研究員がほざきやがる。これも研究の一環だといって俺をこき使うのさ。冗談じゃない! 人権侵害だっ!

「これ以上騒ぐと出番なくすぞ」

ごめんなさい。悪ふざけがすぎました……。俺、働きます。


 一仕事終えたガンマは陰気な場所から開放されるべく研究室の外庭に出、深呼吸をした。仕事に追われて完全に忘れていたアルファのことを思い出す。仕事の時間が始まる前にとアルファの部屋へと急いだ。

『睡眠中』

「おいおい」

アルファの状態を示す部屋前のディスプレイに書かれていた事に落胆するガンマ。テニスの約束絶対付けるまでしつこくするぜ。そこに花束を持ったエプシロンが現れた。

「お、エプシロン。気取っちゃってどうしたの?」

「勘違いするな。こいつは治療の一環だ。……アルファのな」

「治療? どういうことだよ」

「……説明するよりもついてくりゃ良く分かる。そのかわり静かにしろ」

エプシロンは部屋のロックを解除すると静かに部屋へ入った。ガンマもそれに習う。二人が目にした光景は散々たるものだった。部屋中は様々な花が無惨に引きちぎられて散らばっている。アルファは部屋の中央に居、顔だけだして花に埋もれていた。初めてみるアルファとその光景にガンマは我が目を疑わずにはいられなかった。こいつがあのアルファなのか。『あの』アルファなのかと。ガンマがドア前でたたずむ中、エプシロンは治療の準備を黙々とこなしていた。転がっているプラスチックでできた花瓶を元の位置に戻し、持参した花束を粗雑に差し込んだ。その姿を見てガンマは思った。

「もしかして一日に何回も同じことを……?」

硬い表情のまま準備をするエプシロンは間を置き、渇いた声でああと一言だけつぶやいた。ガンマは黙って成り行きを見守る他なかった。辛いのは自分だけではない。生きている限り生きることは辛いのだ、と。しばらくすると一通りの整理がつき、二人は近くのロビーにて腰を下ろす。

「すまんな」

一服を終えたエプシロンは突然ガンマに謝罪する。軽く驚きの表情をしたガンマを見てエプシロンは初めて硬い表情を崩した。

「アルファの治療のことだ。さっき説明できなかったからな」

「別にあやまらなくてもいいじゃないっすか。俺全然気にしてませんから」

エプシロンは煙混じりの吐息をついた。それから床を見つめたまま動かない。ガンマは張り詰めた空気を払拭しようとネタを振ろうとした時エプシトンは静かに言った。

「目覚めれば場合によってはアルファを殺すことになるかもしれん」

「え……?」

「あいつの中に眠っている『記録』はこの世にあってはならんのだ。それを鎮めるために眠る『A』を呼び覚まそうとしている」

「記録? なんだよそれ。なんか知ってんだろ重要なことをよぉ」

「黙れ」

エプシロンは激しい見幕でガンマをにらみつけた。制圧。ガンマは動きどころか呼吸さえも止められたかのような錯覚を感じた。エプシロンは吸いかけのタバコを消し起立する。

「お前とは絡みづらい」

ガンマには厳しすぎる一言が残された。


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