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第八話/一方向の未来




 ペンシルバニア州フィラデルフィア――カフェテリア『スイートハーブ』
「ごめん……アルファのこと連れ出せなかった……」
「そう気を落とさないで。私だってエプシロンを最後まで護り通せなかった、どっちもどっちだよ」
幸せそうなカップルたちが雑然とする店内の中、オミクロンは黙ってオレンジジュースを飲む。店内から視線をはずして都会の夜景を見つつ、モカを上品に飲むニュー。二人だけ未だに沈黙が続く。
「ねぇオミクロン。もう『月』へ帰ろう、いいよね?」
「うん……。やることはやったし、もう地球にいなくてもいいし」
「決定ね」
二人は席を立ちエントランスへ向かう。エントランスの出口には待ちわびていたかのように、危険な若者集団が二人を取り囲んだ。
「どういうつもり? ナンパならごめんなんだけど(そんなわけないか)」
「言ってくれるじゃねえか、姉ちゃんよ。だが残念ながらナンパなんかじゃない。もっと重要なものさ」
「お姉ちゃん、なんか嫌な予感するよ」
ニューのコートをぐいぐい引っ張りながら不安そうにオミクロンは呟いた。
「なんだかわかるか?」
とジュラルミンケースの中から厚手の一辺がギザギザに凹凸している特殊なカードを取り出し、ある若者がそう言い放ちった。
「……。面白いモノ持ってるじゃない。私たちが『そういう』関係の者だとわかって見せてるんだと思うけど」
ニューはその男に一歩近づき続ける。
「それを私たちに見せたからには、あんたら全員生きて返すわけにはいかないねぇ。無駄なことはしたくないんだけどさ」
双方戦闘態勢を取り出すと集団の奥からこちらへ向かってくる声がした。
「おいおい、物騒だな」
「え!?」
ニューは驚きを隠せなかった。なぜここにアルファがいるのか。頭が混乱してきた。何時の間にか空気は完全に止まっていた。
「なんでそんなに驚いている?」
周りの若者たちがアルファに「こいつら兄貴の知り合いですか?」と訊ねるが、まあそんなもんだと答える。最新の情報だと、アルファは怪我の治療のため研究所内で入院しているはず。それにフィリーに何のようがあるっていうの? 変なやつらとつるんでるし……。
「お前ら月の人間だな?」
アルファの意外な言葉に私は手に汗にじんだ。
「なぜそれを……!?」
うんうんとうなずくアルファをよそに、ニューはさらに謎めいた。信じられないことだが、少なくともこいつはアルファではないと確信した。あのカードを持っている集団にアルファが居るなんて不自然だ。言って見るしかない。
「あんた、誰なんだよ」
「俺か? 俺はアルファに決まってるじゃないか。変なこと聞くんだなニューは」
なりすましている。それにあいつは言っていけないことを今口走った。早くも尻尾を掴んだよ。偽者君。
「馬鹿だねあんた。本物のアルファが私のコードネーム知ってるわけ無いじゃない。一度もあったこともないし情報も漏らしたことも無い」
偽者のアルファは驚嘆していた。唇がピクピク震えている。面白いほど分りやすい人なのね。
「クク……ちっくしょ。ばれちゃしょうがねぇな。ああ、そうだよ。俺はアルファなんかじゃない。だがな、アルファなんかよりも俺は優れてるんだよ」
「頭の悪さでしょ?」
「はぁ!? ふざけるな、BCMとしてに決まっているだろ、バーカ!」
「……それもあるんだけどな」
時は一時的に止まった。総員呆れ顔だった。偽者を除いては。よ、予想以上に変なやつだわ。一体何者なんだよ、あんた。
「俺がアルファじゃないと部外者にばれちまった。つーことで、取引しないか?」
「取引?」
「ああ。このカードをお前らにやるから、お前らは俺がアルファじゃないということを誰にもばらさないで欲しい」
「ふーん。カードは欲しいんだけど、正体はばらしちゃうかもね」
「なんだと!」
冗談交じりではなったニューの言葉は偽者の感情を逆なでした。
「お前なぁ、言葉ってもんを選べよなぁ。俺が怒って何をするかも知らないくせによぉ」
「ちょ、ちょっと……」
突然偽者はニューに飛びかかる。間一髪かわした先には、拳によって顔の歪んだ偽者の仲間が居た。
「あがが……。あうう、うあ。があああああ!」
殴られた仲間は気が狂ったように、ニューに襲いかかって来る。息づかいを荒くしながらよだれを垂らす。まるで人間とは思えなかった。
「本能を導く」
偽者は小さく呟く。集団がはやし立てる罵声が錯綜する中、その言葉をしっかりとニューはキャッチしていた。やつのBCMとしての能力か。今までに無いメンタルタイプの能力。『新型』だわ。月でもカーマインBCM研究所でもない、第三のBCM研究所からか極秘研究された他国のBCMかもしれない……。
「BCM同士であまり殺し合いはしたくない。最後の問いだ、取引を頼む」
こいつ、行動が甚だしくおかしい。能力がわかった今、取引を断れば惨事が起きるに違いない。
「その取引、飲むよ」
安心したのか、偽者はよれたスーツを伸ばしネクタイも締め直した。狂った人間は気を取り戻し、周りのどよめきもおさまってきた。しかしニューは疑問に思っていた。
「どう考えても私達の方が有益なのに、いいの?」
「ああ構わねえさ。月の研究所に関係あるブツだしよ、今後の俺らの研究のため持っていってくれ」
まだわだかまりが残りつつ私はカードを受け取り、口を堅くすることを決意しこの場を後にした。
「……これで責任はあいつらに預けられたぜ。超危険な思いして忠犬になることはない」


 デルタは潤いを求めて夜中のNYを彷徨っていた。僕は夢を見てるのかな……誰もが真実を受け止めてくれない。お姉ちゃんはあのシリウスに洗脳されてるんだ。だからあのような寝言を言ってるんだ、そうに決まってる。デルタは物思いにふけって歩っていると、突然何かとぶつかる衝撃を覚えた。「すいませ――」はっと思い振り返るとよろけて今にも転びそうな老人がいた。反射的に駆け寄り腕を引き抱擁する。大丈夫ですかと言うや否や、老人から酒の臭いがふりかかる。上目使いで顔を覗くとシリウスに非常に似ていた。瞬時に憎悪が込み上げ、歯を食いしばりながら関係ないただの老人を突き放し去る。突き倒された老人はうめき声をあげるが、デルタは冷酷な瞳で蔑む。その瞳は子犬いや老犬を怯えすくませた。僕は何をやってるんだ……。何の関係ない人を蔑んだって意味無いじゃないか。反省しろ、自分。誤るんだデルタ――。恐い。逃げなくちゃ。居たたまれない気持ちが一杯ながらも、デルタは駆け出した。
「ぐ!?」
後方から一発の銃声。銃弾はデルタの心臓を背部から間違いなく貫いていた。鉛が体を通り過ぎていく感覚は余りにも冷たく、ほろ苦かった。よろけた後、背後に振り向くとサイレンサー付き拳銃を構えたエプシロンが居た。それに寄り添う老人。
「なんで……? エプシロンさんが……」
「……」
無言で睨み返すエプシロン。再度トリガーを引く音が生々しく聞こえる。
「ど、どうしたの……!? なんでそんなこと――」
鉛が上半身に数発突き抜けていった。痛みは無い。ただ意識が薄らいでいく……。大量の血を噴出しながら僕は倒れた。
「じいさん、もう安心だ。こんな所で夜中にふらついてちゃ命が幾つあっても足らんぞ。早く家に帰るんだな」
老人は何か物言いたそうにしていたが畏怖が強く、震えながら闇へと消えていった。
「だから子守りは面倒だって言ってんだよ……」
ぼやきつつもデルタを抱えて研究所へと戻ることにした。

数時間前、某所――
「博士! 大変です!」
「騒々しいな、何があったのだ?」
「スパイによって例のカードが盗まれています……!」
「あれほど厳重に管理していたのにか!」
博士は強くデスクを叩く。鋭い眼光は憎悪に満ちていた。
「監視カメラから曲者を割り出せ。判断できしだい報告しろ」
畜生。盗めるはずが無い。現代技術の粋をどう潜り抜けたのだ。まあ盗まれたことを悔やんでもしかたないな。盗んだ奴を木っ端微塵に抹消せねばなるまい。黒いマントを体に巻きつける。その後報告が入った。
「男性型のBCMと判断しました。しかし遺伝子が暗号化されていて誰だかまでは判断できませんでした……。」
「ふん。寧ろ『暗号化』で誰なのか私には判断できたわ」
「『シグマ』を今すぐ殺しに行き、カードを取り戻すのだ。勿論あいつらにこの事を伝えるのだ。自律的に殺戮しに行ってくれるだろう」
「了解しました」



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