イヌペン 第7話(小説版原作作成日:2007年)
原題
健康しんだん!?
墓場で再会
タイマーON!!
おそかった
ボンバ!!
ももたろう?
孤独な族人
ハトにパチン☆
し・み・つ
あくる日の早朝にイヌペンは目覚めました。
「……朝四時四十一分五秒か……二分十一秒、昨日より遅くなってんな」
放屁をしてから時計を眺めていました。イヌペンのお尻の先には、「く……せ……」と断末魔をあげる瀕死のピーコがいました。よだれを垂らして気持ち良さそうに寝ているピーコに、イヌペンは気が付きました。
「ピーコ……。なんだ、また死んでるフリしてもお〜」
(フリじゃねーっつーの!!)
今日も元気よく太陽は顔を出して、目一杯の光を降り注ぎます。その光は朝から忙しい町の病院にも確実に差しこんでいます。看護士は小さく丸まっているイヌペンに診察の時間が回ってきたことを告げました。
「イヌペンさん、どうぞ」
青ざめた顔にマスクという、いかにも体調が悪そうな装いでイヌペンは弱々しく立ち上がりました。これを見ていたピーコはいてもたってもいられませんでした。
「お父さん大丈夫? 肩貸そうか?」
「遠慮なく!」
イヌペンはピーコの肩をつかんで引っ張りました。「わっ! そういう意味じゃなくて……」と言われてもぐいぐいと引っ張り続けるイヌペンに、ピーコは色々な意味であきらめました。
行儀良く診察室のドアのノックが叩かれ、どうぞと先生が声をかけると酷く苦しそうなイヌペンが現れました。大丈夫ですかと言い終わる前にイヌペンの手元を見て疑問を抱きました。
「なおして!」
イヌペンが差し出したのは針が動かなくなった時計でした。
「まさか……『これ』を直すの? え、君風邪とかじゃないの?」
「風邪なわけあるかい。こんな場所にいたら変な病気もらっちゃうとかが心配で心配で、万全の装備して来たのに気が滅入っちゃうね!」
十分後――
病院からでてきてボロボロになったイヌペンは帰路についていました。
「いーじゃんケチ!! お医者さんは『なんでもなおす』っつーからこの時計なおしてもらおうとしたのに!! あーもー!」
ピーコはあきれてものも言えませんでしたが、あることを閃くとイヌペンに提案してみました。
「ねえお父さん。お父さんの母上に直してもらえば! あっあ……サボンさんのお父さんとかが良いんじゃない? 直してくれそ……あ、いや。なんでもないよぉ……気にしないで……」
いつになく段々と落ち込むイヌペンにピーコは焦って言葉を濁してしまいました。
「ピーコ、おまえ先に帰ってろ。オレはこれから寄っていく場所があっから」
ピーコの返事はイエスといいながらノーというニュアンスが明らかでした。
とある墓場に着いたイヌペンは一際離れにある墓標の前に立ち止まりました。自然に涙がこみ上げ、しばらく立ちすくんだまま風に吹かれました。
「じいちゃん……大切な時計壊れちゃったよ……」
木陰から見守るピーコは少しもらい泣きしてしまいました。しかし、「さーて。帰っか」と立ち直りの早いイヌペンに対して、私が流した涙は何だったのと感ぜずにはいられませんでした。そこに、君、とイヌペンを呼ぶような声が聞こえます。僕? そう君。イヌペンは怪訝な表情をしながら振り向きました。イヌペンの容姿に似た物体がとぼけた笑顔を振りまきつつ、腕を組んで仁王立ちしています。その物体が後に続く一言を発さないため、妙な雰囲気になりました。いつのまに気付いていたのか、イヌペンはピーコに「いくぞピーコ」と帰り支度をうながしました。
「いや……待てってば。ちょっぴし話が……」
「墓場で立ち話?」
イヌペンの意見に、ごもっともという気持ちがその物体の顔に表れていました。
イヌペンの家――
イヌペンはあたたかいお茶を湯飲みに淹れて、コースターを敷きました。それをカーリングのようにスライドさせて客の元へ運びました。イヌペンに似た物体はそれを見て気分的に悪くなりましたが、イヌペンの体格等を考慮して納得しました。
「――で、話って何?」
「オレはお前の兄貴なんだ。ついでに名前はハラペンという」
「ん、へえーっ。で?」
「お前の父親のことなんだけどよ……」
さきほどからぶるぶると震えていたピーコが小さく何かを呟きました。それに気が付いたイヌペンはようやく聴く準備を整えました。
「どうして……なんであんな爆弾発言を『へえ』とか『うん』で片付けるの? お父さんなにかおかしいよ!」
「爆弾発言? ピーコが何か言ったの? 大切なこと」
「おまっ……え!! オレの話をちゃんと聴いてなかったのか!?」
イヌペンは正直にうんと答えました。ハラペンは大きくため息をついた後、気を取り直して語気を強めて言いました。
「だからあ! オレはおまえの兄ちゃんなんだよ! オッケイ!? あと名前はハラペンね」
「ええええ゛え゛っ!?」
さも興味と驚きがあるように、イヌペンは大げさなリアクションをとりました。一通り落ち着いた後、ハラペンとピーコへ静かに語りだしました。
「……でも何となく感じていたよ。自分と同じ姿をしたひとを初めて見た。もしかしたらきっと、僕の親戚か家族なんじゃないかなって。おかしな話だけど何だかハラペンと初めて会った気がしなくて、妙な親近感があったんだ」
「そうか。やはり何か通じるものがあったんだな……。俺らは本当の兄弟だもんな」
静かに見つめあうイヌペンとハラペンをさらに見つめるピーコはほんわかしていました。ハラペンはお茶を一服して気を取り直しました。
「ところで……さっきの話の続きだけど。おまえ小さかった頃の記憶とか覚えてる?」
「小さかった頃? んーと、二年前の今日は近所のサボン親子と一緒に川へ魚釣りに行った。サボンはいつも藻ばかり釣ってたんだけど、あの日はいつもと違かったね。すげーでかい当たり来たとか言ってて見に行ったら、途中で真っ赤な顔しているサボン父が居たわけよ。あの時は鼻の穴から藻をすすってるように見えたんだけど、あれヒゲを伸ばして魚採りしてたんだよね。そのヒゲとサボンの釣り糸がお祭りしてたってわけ。サボン父が悔しいような喜んでいるような変な顔で、涙目になってた」
微妙に詳しい説明にピーコは困惑しました。
「そうか……実はな、よおく耳をかっぽじって聴けよ! イヌペン、会いたいか? 『肉親』に……」
「断る!」
イヌペンは何呼吸かおいた後堂々と断言しました。
「だって、僕をすてた親だからだもん…………」
もぬけの殻のようになったハラペンをよそに、イヌペンは軽々と手元の湯のみを取りました。
「そうか。悪い気分にさせてしまったな……。そろそろおいとまさせてもらうよ。これは気持ちだ、受け取ってくれ」
そう言い終えると、テーブルの上に小さな包み箱を置いて玄関の外まで歩いていきました。なにもない背後へ振り向き、「強硬手段だ」と誰かに語りかけるしかありませんでした。
「ちょっとお父さん! 黙ってみてりゃなんなの! 普通は『待って〜』とか言って後を追っていくんだろうがよおおっ!! はやくいきなさいっ!」
「え゛ーっ! めんどい。それはそうと、なんか屁臭くない? おいピーコすかしっぺすんなよ」
「私が黙ってそんなことすると思う? そうやって話の論点変えないで、早くお兄ちゃんを追っていったらどうなの!」
「ちょっと待った。今聴き捨てならない言葉を聞いちゃったぞ。『私が黙って』って、んじゃ屁するときいちいち宣言すんのかよ。おめーみたいなやつこそ、すかしっぺすんじゃねーのかよ!」
「ああもう! 意味わかんないよおおおっ!」
「おれもわけわかんねええええええ!! あっ、屁がでる」
イヌペンはわざわざピーコの方へ向けて思いっ切り放屁しました。
「ぐざっ!! もーっ! ん? えっ…………。ねえ、お父さん……なんか変な音が聞こえない?」
「これか? それは『へ』の音だ! あ゛!」
同じようにもう一度、恍惚の笑みを浮かべて放屁をしたイヌペンですが、ピーコはあっさりとかわしました。
(だめだわ……まったく当てにならない。さっきから妙な音が近くから聞こえる。私一人でもこの音の源を探し当てないと気が落ち着かないよ!)
考え込んで微動だにしないピーコの背中を見るイヌペンは、チャンスとばかりに存分にピーコへおならを噴射しました。
紐でくくられ魂が抜けかけているイヌペンをそこらへんに放置し、ピーコは奇妙な音探しを再開しました。気絶から目覚めたイヌペンは反省の色を見せずに、「わかったよ! もうお願い、このヒモほどいてっ。ねっ。その音探し手伝うからさっ」とはしゃいで言いました。こんな態度を取るということは普通に信じていいのよね。
「ほんとに? もう意味わからないことしないでよね」
「おっしゃ、手伝うぜっ!」
二人は手分けして探すことにしました。そんな中イヌペンはさきほどハラペンが置いていった箱に着目しました。丁寧に包装紙を解いて中身をみてみると、デジタル時計のついている四角い箱が入っています。
「時計壊れてたからちょうどいいじゃないの。壁にかけっか」
「ちょっとお父さん!? ぼけっと突っ立ってないで、探すの手伝ってよね!」
「いやこれ面白いんだよ。この中に時計が入ってたんだけどさ、普通の時計かと思ったら数字が減って進んでる」
「え? それってまさか!」
ピーコが険しい表情で時計まで詰め寄り、自分の目でそれを確かめました。数字は0:18と刻んでいて、一分おきに1ずつ減っているようです。
(間違いない! 変な音の原因はこれだ。不吉な予感をくすぐるこの音を止めなくちゃ)
「……お父さん。この時計の中から探している音が聞こえるの。責任を持って音の原因を突き止めたいから、これを分解していいよね?」
「まぁピーコがそういうのなら別にかまわんよ。ファイト」
ピーコは解体用の道具を持ち出して、時計の分解をはじめました。はじめは順調に事を進めることが出来ましたが、ある部分で手が止まってしまいました。
「ねえお父さん……。これ、どっち切ったほうが良い? どっちの『ヒゲ』を……」
分解された時計の中には細々とした部品に溶け込んでいるミニサボン父がたたずんでいました。
「うーむ。なぜサボン父が時計の中に?」
「お父さんもう時間がないよ! あと0:05しかないないんだから!」
都合よく逆ギレをするピーコをよそに、イヌペンはのんきに思考をめぐらしました。そういえばサボン父ってヒゲ伸ばせたんだよな。あのときのヒゲはかっこよかったなあ。サボン父の存在がかすむくらい素敵だったなあぁ。そのヒゲを誉めたら、「そんなことないよ」って言ってくしゃみしてたっけ。くしゃみの衝撃で片方のヒゲがたらりと……ああ!
「ピーコっ! 左だ、こっちからみて右のヒゲね!」
「わかった! お父さんを信じるよ!!」
ミニサボン父のヒゲをペンチで引きちぎると、時計周辺からまばゆい光がほとばしりました。
後半部分の文章UP予定は未定です。
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