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トップイヌペンの家→イヌペン第4話

イヌペン 第4話(小説版原作作成日:1999年頃)

原題
いつもいっしょ!
主人変更
死角!?
父のひげ

 朝五時……オレがいつも起床する時間だ。さて、昨日の夜露に濡れた窓を開けてと。ああ……きれいな朝日がやさしく肌を差す。ライビンは五分間ほど日光浴をしてから、ある場所へと移動しました。


 その場所へ着くとライビンはゆっくりと見上げました。そこには大きくそびえ立つドアがありました。物音を飲み込むような気配がライビンを武者震いさせました。ドアの左端にはライビンと同じ背の高さのドアノブがあり、そこから用意しておいたドッグフードを持って部屋の中へ入りました。ドアを押し開けるたびに、冷たく、重く、錆付いた音が響き、ライビンを拒む意思さえ覚えます。ライビンはもう少しだけドアを開け、誰も居ない部屋に問いかけました。


「おーい、朝ごはーん」


 ほんの少し間があってから中央の床の辺りからクモの巣状にヒビがはいり、そこの隙間から得体の知れない大きな生物が現れました。その生物はまるでクマとゼリーが融合した姿で、この生物はライビンに何故呼び起こしたのか尋ねました。意外な場所から出てきた生物を見て、ライビンは暫らく放心していましたが、朝飯持ってきたぞと偉そうに答えました。すると生物は嬉しい限りで、「本当! 僕嬉しぃ〜っ」と大声で叫びました。この数秒後、ライビンがこつ然と姿を消したことに気付き、ライビンのいた場所にはさびしい朝食がぽつりと置いてありました。


 生物は少量のエサではすぐに息絶えてしまうのでもっと山盛りと欲しかったのですが、それ以前に小型犬用のエサ入れにアンパン四分の一の量のエサ、というのがどうにも納得がいきませんでした。


「ちっと少なすぎ、ねーかこんちくしょ!!!」


 一気に怒りがこみ上げ、生物は貴重なエサをぶん投げました。それだけでは怒りは収まらず、壁に体当たりなどの八つ当たりをしました。実を言うとライビンはこの一部始終をドア越しで傍聴していました。しかしライビンはこのような八つ当たりを聴きたくて傍聴していたわけではなく、久しぶりに自ら腕を振るったフランス料理のようなものを食べてくれるかどうか知りたかっただけなのです。家人にも評判の腕前ですが、気取って量を減らしてしまったのがいけなかったのかなと、ライビンは思っていました。


「今度会ったらタダじゃ済ませねーぞ」


 急に重低音の声が響き渡りました。ライビンはだからヤなんだよ預かり物はと、体を恐怖で震わせながら反抗しました。ライビンはひっそりとその場を離れました。


「どーしたの、浮かない表情して。何だったら僕が君を慰めて、癒してあ・げ・る」


 イヌペンがエロ親父のような目つきと、おんなのこっぽい喋り方でライビンに言いました。イヌペンの登場によって、ライビンは絶妙な間をつくりだしました。間があけると、ヤンキー顔負けのガンつけをして答えました。


「何でオレんちに入ってんだぁ? あーん?! 不法侵入で訴えっぞ」


 ライビンの大迫力の演技にイヌペンは圧倒されてしまいました。しかしイヌペンは、ちゃんとした理由があってライビンの家へ上がりこんでいたのです。


「この前のお返し。ライビンも勝手にオレんちに侵入したでしょ」


 ライビンはさきほどのガンつけで姿勢を崩し、そのままごてっと倒れました。まだ壺の生活に慣れていないのでしょう。ライビンは起こしてくれと、イヌペンに助けを求めましたが、イヌペンはいつのまにか姿を消していました。



 イヌペンはあの生物の住むドアの前に居ました。ドアの中央には「ぺろのへあ」と書かれた表札が紐でぶらさがっていました。イヌペンはなんとなくぺろの部屋へ侵入してみました。すると、ぺろは未だに怒りに燃えていて地団駄していました。イヌペンを発見したぺろは、一定の暴れ方でじりじりとイヌペンの方向へ近づいていきました。イヌペンはぺろを気遣うかのようにちょんっと、ぺろの体に触れました。しかし、すぐにぺろに踏み返されてしまいました。相当の体重を持つぺろに踏み潰されたのにもかかわらず、イヌペンは痛い顔をひとつもせずに、


「君。落ち着いて。わけを言ってごらん」


 と、心理カウンセラーのような優しい声でいいました。ぺろはさっきまでの行動とは裏腹に、急におとなしくなり泣きながら事情を語りました。


「……偽の主人が、めし、くれないんです」


 この事情はかなり深刻だとイヌペンは感じました。


「ぺろ。ちょっと待ってて」


 イヌペンはそう言い残して、ぺろの部屋を去っていきました。



 しばらく経つとイヌペンはぺろの部屋へと戻ってきました。ライビンの家の食料庫からスルメを失敬してきたのです。ぺろに差し出すとおいしそうに食べてくれました。まるで自分の手料理だと言わんばかりに「どう?」と、ぺろに尋ねました。


「量は少ないけど、なんだかお腹がいっぱいになったよ!」


 ぺろはご満悦でした。はっはっと息を切らしながらイヌペンの小さな手をつかみ上げ、「主人になって!」と、お願いしました。イヌペンは快く承諾しました。


 その頃、ライビンはいまだに転んだ状態から変化がありませんでした。起き上がるための手立てを尽くしきった彼にはあきらめムードが漂っていました。偶然に体が横に揺れると、年に一回の奇跡が発動したのか起き上がれそうな雰囲気になりました。


「お!」


 舞い上がった口調で喜びを表していましたが、べしっという鈍い音がするとともにライビンの体は宙に浮きました。


(ん? 何だ? 360度の景色が見えるけど……。あ。ああ。オレは回ってんのか。それも空中。イヌペンとぺろがものすごいスピードで走ってんな。イヌペンのやろう、ぺろを勝手に外へだしやがって!)


 豪快にぺろに跳ね飛ばされたライビンは、着地がうまくいかず転んでしまいました。


「っつーかイヌペン! ぺろを部屋の外へだしてどうする気だぁーっ!?」


 口を大きく開け、体をゆすりながら叫びました。


「もらう」


 予想もしなかったイヌペンの答えがライビンの耳に飛び込み、脳を刺激しました。


「そいつはっ、ある人から預かったっ、大切なペットなんだぜ〜」


「知るかボケ」


 焦るライビンをよそに、イヌペンはぺろを連れて家の外へ楽しそうに駆けていきました。



 イヌペンとぺろは敷地内で走り回りました。暫らく経ったとき、ぺろは何を思ったのかいきなり立ち止まりました。ぺろをつなぐリードを持ったイヌペンは急に止まれずに、ぺろの体にぶつかってしまいました。イヌペンは「どーしたん?」といいながら起き上がると、ぺろの姿がこつぜんと消失していました。


「ぺろ!? ぺ……ろ……? どこいっ――」


 イヌペンの眼には怒り爆発のライビンが映っていました。それがだんだんと大きくなり、イヌペンの真正面にそびえ立ちました。イヌペンはやってしまったという気持ちを隠しきれずに「はは」と言い、ライビンも「はは!」と半ギレで言いました。


「ははは……」


「ははは、じゃない!!!」


 ライビンは地面の土ぼこりが全部なくなってしまうくらいのため息をこぼしました。そして威厳をとくとみせつけるように、絶叫しました。


「あれ、偉い人から預かっているペットなんだぞ!」


 ライビンはイヌペンの頭にアイスクリームをつけました。そこにぺろの本当の飼い主が現れました。「おや!?」といいながら近づいてきます。最悪なタイミングで現れたぺろの飼い主に、ライビンは顔を引きつらせてわななきました。モアイ像のような顔つきの飼い主なので近づきがたい存在にも思えますが、イヌペンは穏やかな心の持ち主なのかなと勝手に思っていました。


「まさか……その表情からみると、なんかぺろにヤバいことがあったんかい!?」


 飼い主は目玉をぎょろりとさせて言いました。


「やだなぁもおー。そんなことあるわけないでしょう!」


「嘘つき」


 ライビンにとっての痛恨の言葉がイヌペンから言われてしまいました。飼い主はすかさずイヌペンに理由を問いただしました。


「こいつぺろを逃がしたのに、『そんなことない』って言ってる!」


 逃がした張本人のイヌペンにむしろ強く出られるはずのライビンは、なぜか自己嫌悪や責任感を感じてしまいました。真っ青になってゆくライビンをよそに、イヌペンはしてやったりと胸のうちで喜んでいました。飼い主は体を震わせながら徐々にうずくまり、極限に達した瞬間に滝のような涙をこぼしました。ひとしきり泣き終ると、すっと立ち上がり、うつむいたままライビンをひょいと持ち上げました。


「どこへ逃がした!!」


 ライビンは弱々しく首を振って否定しました。その行動をした直後、飼い主はライビンを脚蹴りしました。ライビンが否定するたびに脚蹴りをしました。イヌペンはこの様子を静かに見守るだけで、ちっともライビンを助けようとしませんでした。ライビンは虫の息になり、「知らないって……」とだけ言い続けていました。するとイヌペンはライビンに近づいて言いました。


「今のうちに本音を言ったほうがいいんじゃないの?」


「……おま……が…………」


 ライビンは力を振り絞って真実を語ろうとしましたが、痛めつけられて声がでませんでした。イヌペンは一瞬ひきつったような変顔をして、しらを切りました。


「まだしらを切るつもりかーっ!」


 飼い主はそう罵り、怒りに任せて脚を振り上げました。


「やめて!!」


 ぺろの突然の声に、飼い主は耳を疑いました。木陰に隠れていたぺろは猛然と山のほうへ駆けていきました。飼い主とイヌペンはぺろを続いて追いかけました。ぺろは走っている途中に、散歩していたサボテン親子の父親にぶつかってしまいました。サボン父は「どうしたんだい? そんなに急いで……」と、ぺろに質問しました。胡散臭いちょびひげをはやした親父に、ぺろは悩みを打ち明けようとしました。しかしサボン父は悩みを聴いた風に「そ」といいながら、散歩を続行しました。散歩をしていると駆け寄ってくるイヌペンとぺろの飼い主が現れました。イヌペンはサボンにぺろを捕まえてとお願いしました。サボンは後ろへ振り返ると、哀しげな表情をするぺろがいました。ぺろは唇をかみしめて、また走り出しました。


「放っておけ。関わるとろくな事がないぞ」


 サボン父はサボンに素っ気ない態度で言い聞かせました。サボンはそう思いつつも、放っておけない気持ちになりました。飼い主は自分はぺろに嫌われていたんじゃないかと、涙を流して悲観的に思い込んでしまいました。この様子を見てサボン父も考え込みました。


「おやじっ! これでも放っておいていいと思うのか!?」


 サボン父は目をキッとさせて叫びました。


「伸びろ! ひげ!」


 掛け声には特別な意味はないのですが、本当にひげは伸びてぺろを拘束しました。このような特技を持っているとはイヌペンはおろか、サボンも知りませんでした。サボン父はひげをより戻そうとするのですが、ぺろの抵抗によって逆に伸びて行っていることを息子に指摘されました。イヌペンはサボン父に素朴な疑問をぶつけてみました。


「そのひげって、どこまで伸びるの?」


「地球を一周できる長さはある……」


 イヌペンはサボン父の体内の様子を想像しました。体の中が全部ひげでつまっている状態です。サボン父が努力していると飼い主が割り込んできて、父のひげをチョキンと勝手に引きちぎってしまいました。


「バカなあんたらには任せていられません。このひげをたどって行こうとするよ。僕は頭いい」


「バカだとぉ!?」


 サボン父は大人気なく飼い主にぶつけました。そして飼い主が見えなくなると愚痴をこぼしました。


「私のひげを断ち切った挙句、バカとは。だから放っておけと私は言ったんだ!!」


 サボンは父を慰めつつ、散歩の続きをしました。モアイとぺろが会えたかどうかは、ご想像にお任せします。


飼い主とぺろ


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